ゴースト / アンノウン・マス

 芝生の上に巨大で真っ白な彫刻がそびえています。一見つかみどころのない形ですが、上のほうにある2つの黒い大きな穴が目だと気づけば、これはお化け=ゴーストなのだとわかるでしょう。お化けや幽霊はふつうは目に見えませんが、私たちの想像の中ではさまざまな形をなし、上から布を被せればお化けの姿を覆うと同時にどんな形をしているか知ることができます。こう考えると、《ゴースト》はより魅力的な作品に見えてくるでしょう。また、《ゴースト》の白い色とスケールは、道の向かいにあるミニマルな美術館建築と結びつけて解釈することができます。ただし、精密な立方体の形にデザインされた美術館に比べれば《ゴースト》は有機的で、まるでどこかから流れ着いて浮いているようにも見えます。
 《アンノウン・マス》も建築と結びついた作品です。一見、作品はトイレの屋根から流れ落ちる雫のようです。水銀のような艶やかな素材ですが、動きはゆっくり膨張しているようにも見えます。しかし建物の中から見ると、その塊は2つの穴、つまり目をもち、逆さまになってトイレを覗いているゴーストだとわかります。彫刻全体に詩的でアニミズム的な性格をもたらすのはこの「目」です。《アンノウン・マス》はそれを気づかせる仕掛けでもあるのです。

撮影:小山田邦哉

 ぶくぶくと太った家と車が置かれています。《ファット・ハウス》と《ファット・カー》は、技術的なシステムと生物学的なシステムの関連性に焦点をあてた作品です。テクノロジーは通常、それ自体が身体のように大きくなったり老いたりすることはありません。しかし、太るという生物としての仕組みを車や家に重ねることで、機械や建造物であっても身体が成長するように変化する可能性を示しています。
 ところで「理想的な体型」とはなんでしょう。私たちの美しさの基準は、社会的な常識によって決められているのではないでしょうか。権力や富の象徴、社会における強さも同様です。これらの作品は私たちが当たり前のように考えている価値観が、じつはとても曖昧な根拠に基づいていることを表現しているのです。
 家も車も私たちの生活には不可欠なものであり、また所有することは社会的地位を示すことでもあります。「素敵な家」や「格好いい車」といった価値観は多くの人が共感するものでしょう。いわば社会の鏡である家や車が、太るという現象によって私たちを裏切った時、私たちはなにを美しいと思うのでしょうか。見た目はユーモラスですが、ヴルムは私たちの常識に疑問を投げかけているのです。

撮影:小山田邦哉

 アート広場の芝生の一角に、色鮮やかな水玉世界が現れました。大小の水玉をまとった、カボチャ、少女、キノコ、犬たちの8つの彫刻群は、草間彌生のこれまでにない規模をもつ屋外彫刻作品《愛はとこしえ十和田でうたう》です。犬やキノコに囲まれた《十和田のハナコちゃん》と題された少女は、エネルギーに満ちあふれ、水玉野原の真ん中で高らかにうたっているかのようです。それはいまなお自由で純粋な魂をもって精力的に創作を続ける、作家自身の化身なのかもしれません。
 一方、体験型作品である《十和田で発見された私の黄色カボチャ》の内部は、七色の光が闇の中で明滅し、訪れる人を包み込むように無限に増殖を続ける世界へと誘います。
 草間により永遠の命を吹き込まれた作品たちは、あらゆる境界を飛び超えて、ここアー卜広場を中心に、十和田のまち全体を生き生きと力強く鮮やかな世界に変えていくのです。

撮影:小山田邦哉

 ゆるやかな丘が広がるアート広場。その中心に丸くて大きな岩が置かれています。作者はジャウメ・プレンサ。美術以外のジャンルでも活躍するスペインを代表する作家です。プレンサはあらゆる素材を用いてユニークな空間をつくりだす作家として知られていますが、本作品は、とある本*にある一節からヒントを得て制作されました。曰く、「神は、世界を創造した時、大きな広がりとしてそれをつくることはなく、あるひとつの点をおつくりになりました。そして、神はその点を世界全体へと広げたのです。この一点こそが天上とこの世との唯一のつながりでした[…]それは小高い丘の上にある岩[…]天と地をつなぐ場所」。岩の中央には“EVENSHETIA”(創造の石)というヘブライ語が刻まれています。この《エヴェン・シェティア》が本当の姿を見せるのは夜です。太陽が沈むと、岩の中心から一筋の光が夜空に向かってまっすぐに放たれるのです。岩の中からなにかが生まれてくるような感覚、世界のはじまりという出来事の聖性を感じさせる光。十和田の夜は神秘的な雰囲気に包まれるでしょう。世界のはじまりと、いま私たちが生きる広大な世界を想像してみてください。身の周りの見慣れた風景も急に違って見えてくるはずです。
*Rabbi Yaakov Asher Sinclair, Seasons of the Moon

撮影:小山田邦哉

 R&Sie(n)は1993年にフランソワ・ロッシュとステファニー・ラヴォーによって設立された設計事務所です(2007年より木内俊克が参加)。パリを拠点に世界中でさまざまなプロジェクトを展開しています。建築設計と並んで活動の中心をなすのは、「リサーチ」と呼ばれる数々の調査・研究・実験です。ハイテクノロジーを用いた、ロボット工学、数学、神経生物学などを用いた領域横断的な表現を通して、科学、環境、人間性の関係を再考し続けています。
 2005年にパリで行われた「聞いた話」展にて屋内に設置された《ヒプノティック・チェンバー》が、今回アート広場のために新たにデザインし直されました。本作品では、同展示のテーマだった「身体の延長として自己生成」する仮想都市を追体験するため、来場者にある種の催眠をかけるストーリーになっています。催眠を通し、その奇妙な身体感覚を体感できるのです。
 19世紀前半のソムナンブリズムと呼ばれた政治運動や、前近代再考の思想を生んだプレフェミニスト運動では、動かしがたい現実とは別次元の自由な社会を手に入れる手段として、実際に催眠が試みられたと言います。この作品は、そうした自由な仮想都市の住人として、日常生活から解放される旅へ私たちをいざなう扉なのです。

撮影:笹原清明


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