現在十和田市現代美術館では、十和田のまちを美術館にするプロジェクト“Arts Towada”が10周年を迎えたことを記念し、Arts Towada十周年記念「インター + プレイ」展を開催中です。
本展は、まちと美術館を舞台に、二年間を3期に分け、作家・作品を変えつつ展開していきます。
この度、2022年1月22日(土)から5月29日(日)に開催する、第3期の出展作家・水尻 自子による新作アニメーション作品《不安な体》の予告編が完成いたしました。
本作品は、十和田市出身で日本を代表するアニメーション作家の水尻自子による最新短編アニメーションです。水尻自子は体の一部や身近な物体をモチーフに、感触を重視する作風で世界的に評価されています。今回の出展作《不安な体》は、丸みを帯びた身体と、それを脅かすようにして迫る日常的なモチーフの組み合わせによって、その作風をさらに深化させ、“感触そのもの”を描き出そうと試みるものです。
今回の作品では、水尻が長年のファンだった本田ゆかが音楽を担当。また、十和田市現代美術館からの委託作品でありつつ、日本(ニューディアー)とフランス(MIYUプロダクション)の国際共同製作作品として、国際的な映画祭での展開も目指します。
《不安な体》は、第74回カンヌ国際映画祭監督週間[2021年7月7日(火)-17日(土)]にて上映。国内では「インター + プレイ」展第3期にて初披露となります。
不安な体 クレジット
2021年/5分47秒/フランス=日本
監督・絵コンテ・アニメーション・編集:水尻自子
音楽:本田ゆか
プロデューサー:エマニュエル=アラン・レナール、ピエール・バウアッソン(以上MIYUプロダクション)、土居伸彰(ニューディアー)
コミッション:十和田市現代美術館
名称
作家
水尻自子(みずしり・よりこ)
水尻自子(本作品監督)
《不安な体》は、様々な「形」が感触をフィルターにして混ざり合っていくようなアニメーション作品です。これまでも感触的なアニメーションを作ってきましたが、さらに作品として新しい段階を探りました。感触的なアニメーションにはそれを寛大に受け止め反映してくれる音が必要です。私は本田さんの音楽が好きでよく聞いていて、様々な楽器で表現する独特の音楽と本田さん本人の佇まいの魅力から今回のアニメーションとマッチするのではと思い立ち、強い希望で依頼させて頂きました。アニメーションの動きに巧妙に呼応する本田さんの音によってさらに感覚が重なっていき絵と音が絡まり合っていく強烈な面白さを作りながら感じています。
プロフィール
映像作家。1984年青森県生まれ。体の一部や身近な物体をモチーフにした感触的なアニメーションを制作する。文化庁メディア芸術祭アニメーション部門 新人賞、ベルリン国際映画祭 短編コンペティション正式出品など、国内外の映画祭で上映・受賞多数。
本田ゆか(音楽担当)
水尻さんの作品に偶然出会えたのは2年ほど前のことだった。来日中の私を友人であり敬愛するミュージシャンである小山田圭吾さん(コーネリアス)が彼の展示会「Audio Architecture」に誘ってくれた。会場で高性能の大きな画面に映された彼女の作品は、とてもオーガニックで、女性感いっぱいでありながらとてもエレガントでコケティッシュな動きをしていて、私の中に共振するものがあり、大きな印象が残った。そんなことから今回コラボレートできることはとても嬉しく思っています。
プロフィール
作曲家、プロデューサー、映像作家
90年代にバンド、チボマットを創設。ワーナーブラザースからアルバム”VIVA LA WOMAN”
でデビュー。プロデューサーとして、ショーン・レノン、マーサ・ウェインライト、坂本美雨、野宮真貴など。アシスタントプロデューサーとして、オノヨーコ・プラスチック・オノ・バンド。最近の活動としてはエレクトリックオペラ”No Revenge Necessary”など。
エマニュエル=アラン・レナール(本作プロデューサー、MIYUプロダクション)
日本を代表するアーティストであり、世界的に有名なアニメーション作家である水尻自子とともに仕事ができることは、我々にとって本当に名誉なことだ。水尻自子の作品で印象的なのは、日常的なパターンの構成による感覚の解釈を、ミニマルなライン、軽やかな動き、柔らかでクリアな色を混ぜ合わせることで造形していく、その優れた一貫性だ。彼女の作品は、常に形式的な実験であり、夢のようで官能的なパステル画の研究であり、それが罪悪感のある快楽と平凡な痛みの間で絶えず揺れ動く。彼女の作品のふんわりとした雰囲気、システムや柔らかで喜ばしい官能、そして現在の瞬間の追求が合わさることで、彼女の作品は見る者の感覚に混乱をもたらす。足のわずかな曲げ伸ばしや手の愛撫によって、我々は熱を帯び、宙吊りにされる。彼女の作品の静謐なリズムは、我々に催眠術をかけて、メランコリックで親密な瞑想の奥底へと誘う。《不安な体》にもまた、水尻自子の作品が持つ独特の詩情と美学を見出すことができる。身体の曲線の官能的な丸みが、日常的な事物の冷たさや幾何学的な厳密と対峙する。この身体感覚、記憶の味、その甘くて限りなくデリケートな快楽。それは我々の存在の本質に、我々を再度接続してくれる。だからこそ、我々はまたしてもこの作品を欲するようになるだろう。プルーストが「マドレーヌ」を齧ったように。
土居伸彰(本作プロデューサー、ニューディアー)
いま、日本の若いアニメーション作家たちは、歴史上かつてないほどに多岐にわたる分野にて才気を発揮し活動しているが、孤高ともいえるほどに確固たる作風を確立し日々深化させつづけている水尻自子もまたその最たる存在である。本作《不安な体》は、十和田市現代美術館からの委託作品であり、同時に日本とフランスのスタジオによる国際共同製作の短編作品でもある。つまり、美術と映画の混ざり合う領域に、国境や地域の枠を超えて生み出される、ボーダーレスな作品ということだ。水尻氏のスリリングなアニメーションが本田ゆか氏の音楽とあわさるとき、見たこともない化学反応が起こるはずで、製作者側でありながら、日々ワクワクしながら完成を心待ちにしている。
金澤韻(本展キュレーター)
Arts Towada十周年記念である本展「インター + プレイ」展は言うなればキュレーターチームの考える「ザッツ・十和田」な作家で構成していて、水尻さんは構想のかなり初期からここにいた。メインテーマとなる人の体や肌の敏感さ・柔らかさ、異常なほどの伸縮性・可変性、そして熱伝導性は、自分の体内と世界が呼吸しあっている様子を見事に描き出している。それはボーダーを超え、凝り固まったものを問い直す、十和田の精神と如実に響きあう。