尾角典子 #拡散

十和田市現代美術館のサテライト会場spaceで、尾角典子の個展を開催します。
ロンドンと京都を拠点に活動する尾角は、世界を構成する法則や超越的な力に関心をもち、哲学、宗教学、量子力学、情報熱力学などの理論体系に、神話、伝説、オカルトといった民間伝承の物語や思想を織り交ぜ、コラージュ、アニメーション、VRやAIといった現代のテクノロジーを複合的に用いて制作している作家です。
本展では、人型にくり抜かれたパネル、マイク、2台のモニターとそれに接続された画像生成AIなどを用いたインスタレーションが展示されます。鑑賞者は、自分の名前をマイクでAIにインプットすることで、モニターに表示されている「space」を変化させることができ、その結果をインスタグラムで拡散することを促されます。
この作品は、小説家ウィリアム・バロウズの「Language is a virus from outer space(言語は外部から来たウイルス)」という一節に着想を得て制作されています。外部から来た鑑賞者が入力した固有の名前によってモニターの「space」が変化することは、固有の遺伝子を持ったウイルスが宿主に侵入し、自らが作った新たな細胞を放出することに見立てられているのみならず、言語が人間のコントロールを超えて影響力を持つことと重ね合わされています。
ウイルスの生態に着目し、人間に影響を与える言語やデジタル情報技術との類似性を見出すことで、尾角の得意とする領域横断的な視点が提示されます。

【サテライト会場space】
十和田市現代美術館では2022年度より、アーティスト目[mé]による空き家を展示室へと改装した作品「space」を、美術館のサテライト会場として運営しています。ホワイトキューブの展示室が突如まちなかの建物の2階部分に出現したかのような「space」を拠点に、若手アーティストによる実験的な表現を紹介しています。

尾角典子 #拡散

 年々上昇する気温と、それに伴い激しさを増す自然災害。私たちの生活を支えていると思っていた自然環境は不安定性を増し、人間の自然に対する関係を再考することが求められています。しかし現在私たちが知る「人間」のあり方そのものが、自然を管理すべきものとして収奪してきたのだとすれば、そのおなじ「人間」が自然を「救う」ことができるのでしょうか。本展では近代が生み出した自律した主体としての「人間」を見直し、そこから排除された存在や思考に目を向けます。私たちの思考を規定するさまざまな二項対立的な枠組みの境界を撹乱しつつ強かに——野生でも飼われるのでもなく野良のように——息づくあり方や物語に出会うことになるでしょう。
 日本とアメリカにルーツを持ち、トランスジェンダー女性として生きるあり方を彫刻で表現する丹羽海子、学校教育を離れ、独学でドローイングを柔らかいウールへと変換し風景を描く䑓原蓉子、品種改良や養殖といった人間のコントロールと動植物の生の関係を取り上げ、映像や料理の作品を作る永田康祐、ブラジルに植民地時代以前から伝わる知識をもとに、植物と人間の関係を問い直す作品を制作するアナイス・カレニンなど、多様な視点から自然を捉える若手アーティストの表現を紹介します。

AOMORI GOKAN アートフェス 2024
十和田市現代美術館では、AOMORI GOKANアートフェス2024の企画として、フェスのテーマ「つらなりのはらっぱ」を自然と人間の交わるところと捉え、その複雑に絡まる関係性に注目した展覧会「野良になる」を開催します。


「野良になる」トレイラー Vol.2