虫-A

 市立病院の前にある、上下左右にカーブを描いたカラフルなベンチは《Worms-A》(虫-A)という作品です。たしかに、虫のような形をしています。アラブ首長国連邦出身の作家ライラ・ジュマ・A・ラシッドは色彩豊かで抽象的な絵画やデザインを数多く発表していますが、今回は彼女にとって初めてのストリートファニチャー作品になりました。
 wormという言葉にはさまざまな意味があります。「体が長くて足のない生物の種類」、「システムの中で自己増殖するプログラム」というコンピュータの専門用語など。では、なぜ虫の形のベンチをつくったのでしょうか。
 官庁街通りに置かれるベンチは、それが目立つと同時に目立たずにまちに溶け込むことの両方が必要だと、彼女は考えました。それがベンチだとわかってもらえなければ誰も座ってくれないでしょう。しかし、まちの風景に溶け込んで環境を壊さないことも大切です。こうした2つの課題にライラ・ジュマがだした答えが、色はカラフルに、高さは低くし、形は虫のようにやわらかく曲線を描いた彫刻にするというアイデアです。そうすることでこの作品は、目立つと同時に目立たない、そしてやわらかく人に寄り添うようなベンチになりました。楽しい色づかいは、きっと子どもたちにも喜ばれるでしょう。

撮影:小山田邦哉


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虫-A

切り株の上に真っ赤なりんごが7つ。少しずつ大きさと角度を変えながら垂直に連なるその様子は、まるで落下の残像が立ち現れているかのようです。白い切り株にいくつも重なる輪は、木の年輪や水の波紋を思わせます。この切り株は、ここ、十和田市の形が模られています。りんごの落下や、広がる年輪や波紋といった自然の現象に、美術館を中心にアートの連鎖が起こっていく十和田のまちの姿を「見立て」ることができます。

撮影: 小山田邦哉


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虫-A

 マウントフジアーキテクツスタジオは、建築だけでなくインテリア、まちなみ、家具の設計や制作を通して、生活環境のクオリティを総合的にデザインする建築家ユニットです。彼らは十和田のまちを訪れてこう思ったそうです―冬には雪片が、春には桜の花びらが、夏には木漏れ日が、秋には木の葉が、まちじゅうにはアートが、透明な空気の中で、いつも舞い散っている―と。汚れのない四季折々の美しいカケラが、宙を自由に舞い散り、重なり合うまち。そんな印象を表現するために、官庁街通りにベンチを並べました。このステンレスでつくられたベンチは、表面が鏡のように磨かれているため、周囲のさまざまなものが映り込みます。ここに座れば、木の葉も木漏れ日もあなたと一緒に存在しているように感じられるでしょう。春には桜の花びらの中で浮遊するような体験ができるかもしれません。私たちはベンチに座りながら十和田の四季の断片を見ることができるのです。自然を映すアートに触れることで、そこに生きる人がまちにいながらも周囲の自然の存在と溶け合う。アートは、そのもののみならず自分とともにある環境にも目を向けさせ、日常を楽しむお手伝いもしてくれる。風に舞い散るこのベンチは、そう教えてくれているようです。

撮影:小山田邦哉


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虫-A

 色とりどりのタイルがランダムに並べられたベンチ。名前は《トゥエルヴ・レヴェル・ベンチ》といいます。これは道に置かれたただのベンチなのでしょうか、それともアート作品なのでしょうか。答えは、「わざと曖昧にしている」。どちらなのかを決めるのは私たちなのです。
 座面のタイルをよく見ると、道路に敷かれているタイルと同じサイズだとわかります。まるで地面がさまざまな高さに盛り上がったようです。この高さの違いを利用すれば、ただ座ってくつろぐだけでなく、コーヒーを置いたり背もたれにしたり新聞を広げたり、待ち合わせをしたり、会話をしたり、ベンチをいろいろな目的に使うことができます。この時ベンチが置かれた空間は、休憩するための場所だけでなく、待ち合わせ場所や井戸端会議が開かれる場所になったりするでしょう。誰がどのように使うかによって、ベンチのある空間そのものが変化するわけです。
 このようにしてアート作品は周囲の人々や空間に働きかけ、さらに空間そのものを作品にします。私たちがどのようにまちとかかわり、まちをつくりあげることができるのか。このベンチはその可能性を示そうとしているのです。

撮影:小山田邦哉


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虫-A

 官庁街通りに置かれた2つの大きな枕。中央には誰かがつい先ほどまで頭を横たえて眠っていたような跡が残っています。この枕をつくった劉建華(リュウ・ジェンホァ)は子どもの頃から陶磁器に親しみ、靴や帽子やかばんなどの日用品を陶器で再現し、彫刻作品にする作家です。
 枕は私たちの日常生活に欠かせない道具です。それは寝室にあるのが当たり前ですから、公共の歩道の上に置かれると違和感があるのではないでしょうか。なぜ枕がその場所にあるのか、理由が不可解なものであればあるほど、驚いたり訝しく思ったりするでしょう。寝ていた跡があるということは、寝ていた誰かがまた戻ってくるかもしれません。その時ここは、寝ていた誰かのための場所なのでしょうか、それとも公共の場所なのでしょうか。そう考えると、プライベートな日常と公共の空間、夢と現実、ひとりと大勢、夜と昼といった、枕から連想されるさまざまな事柄の対比が浮かび上がってきます。
 この枕は、彫刻であると同時にベンチとしても機能します。この通りを歩いて疲れたら、ちょっとこの枕に腰掛けてみましょう。そして少しの間、寝ている時の私たち自身のことを想像してみましょう。官庁街通りは、私たちにとってもっと親しげな場所に変わるのではないでしょうか。

撮影:小山田邦哉


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関連企画展

虫-A

 近藤哲雄はいろいろな形をしたストリートファニチャーをたくさん並べました。これらはひとやすみするためのベンチであり、商店街の人たちが思い思いに花をいけるための花壇や花瓶でもあります。ショッピングを楽しむだけでなく、みんなの交流の場として商店街がますますにぎやかになっていくといいなという作家の思いが込められています。

撮影:小山田邦哉


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虫-A

 商店街の風景に溶け込むような、透明感のあるベンチです。作家は制作の意図について「商店街を歩いていたら突然なにかもくもくと立ち上がっていて、見るとくぼみがあり、そこにしばし体を投げだして休憩できるといいなと考えました」と語っています。いつもの風景の中にぼんやり浮かんだボリュームは、あるようなないような空気のような存在感で、新しい風景をつくりだしています。

撮影:小山田邦哉


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