美術館
塩田千春
塩田千春は、生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「存在とは何か、⽣きているということはどういう意味なのか」、「私たちは何を求めて、どこへ向かおうとしているのか」という問いを探求しています。塩田は、場所やものに宿る記憶といった不確かで見えないものの存在を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体や写真、映像など多様な手法を用いて制作しています。
塩田は、十和田市に作品を設置するにあたり、十和田湖に着想を得ました。十和田湖は22万年前の火山活動によって形成されたと言われ、十和田は水を引いて切り開かれた場所です。展示空間全体を包み込んだ赤い糸は、時間と記憶を運ぶ船をこの場所に繋ぎとめています。この木製の細長い船は、十和田湖にあったものです。船は未知の場所へと導いていくものでもあり、海を渡る船は死と隣り合わせでもあると塩田は言います。生と死の気配が共存しているこの船は、塩田の問いと繋がっています。
赤い糸は、生命を表している色でもあり、人と人との縁をつなぐ糸でもあります。糸が何層にも編まれることで、一本の糸を目で捉えられなくなっています。《水の記憶》の赤い糸は、水やモヤのように、掴めない、捉えられないものを表現しています。
撮影:小山田邦哉
©2021 JASPAR, Tokyo and Shiota Chiharu
塩田千春
1972年、大阪府生まれ。ベルリンを拠点に活動。
生と死という人間の根源的な問題に向き合い、“生きることとは何か”、“存在とは何か”を探求しつつ、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在感を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2015年には、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表に選ばれる。2019年、森美術館にて過去最大規模の個展「魂がふるえる」を開催。また、南オーストラリア美術館(2018年)、ヨークシャー彫刻公園(2018年)、高知県立美術館(2013年)、国立国際美術館(2008年)を含む世界各地の個展のほか、国際展などのグループ展にも多数参加。
制作年:2021
素材:木製の船、赤い毛糸
サイズ(W×D×H):544.8×852.7×465 cm
インタビュアー:見留さやか
作成日:2022 年3 月