まちなか常設展示
本山ひろ子
駐車場の花壇に、ふっくらとした小さな鳥が43羽、並んでいます。くちばしを開け空を見上げるその姿は、仲間同士で話しをしているようにも、餌をついばもうとしているようにも見えます。本山は、その土地をテーマに架空の物語をつくり、そこに登場する動物を作品のモチーフとしています。命を吹き込んでいくかのように一体一体、金属を鋳型に流し込みつくられた鳥たちが、この場所で生き生きと暮らす様子に出会うことができます。
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むかし、むかしのお話
北の国では、たくさんのどうぶつたちが暮らしておりました。春にはやませが、冬には颪(おろし)が吹き、どうぶつたちは木の陰にかくれたり、岩のすきまに身を寄せたりして、寒さをしのいでおりました。
地球が前より温かくなってきて、たくさんの鳥たちが南の国からやって来ました。北の国はなんだか過ごしやすそうだと、うわさを聞いたみたいです。
南の国の鳥たちは、やませも颪(おろし)も知りません。冬になり、あまりの風の冷たさに我慢ができなくなりました。
するとだれかが西二番町に良さそうな場所を見つけたので、早速行ってみることに。
そこはみんなが楽しそうにしている美術館でした。床には美しい花が描かれています。やませも颪(おろし)もやってきません。
温かい飲み物、美味しそうな匂いもします。
ここなら寒くもないし、美味しいものもあるし、なんだか過ごしやすそう。餌を探す手間も省けると、鳥たちはここに居座ることにしました。
お客さんが来ると、よこどりしようと上から狙いを定めます。
最初は可愛いねと言っていたお客さんも、あまりに鳥たちの目が気になって、とうとう美術館の人たちが怒り出したのです。ぶつぶつ文句を言いながら、鳥たちは美術館を出て行くことにしました。
外は颪(おろし)が吹き荒れています。
鳥たちは横に並んで身を寄せ合い、駐車場でじっとしていました。
それを見ていた近所の人たちが、かわいそうだと鳥の周りに花を植えてくれました。花にやってくる虫をつまんだり、花の蜜を舐めたり。
鳥たちは北の国で居場所を見つけたのでした。
おしまい
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撮影:小山田邦哉
本山ひろ子
1975年千葉県生まれ。東京藝術大学大学院鋳金専攻修了。蝋の特性を生かした鋳金技法「蝋型鋳造」で身近な動物や植物をモチーフに立体作品を制作。近年では、瀬戸内国際芸術祭2022にて「動物は神さまが姿を変えてここにいる」というコンセプトを元に「装う神さま」というシリーズ作品を発表。また、堆肥舎を改装したアトリエでの制作の傍ら、養蜂により育てたミツバチから取れる蜜蝋を精製し、作品制作に取り組んでいる。
制作年:2006
素材:ブロンズ
サイズ(W×D×H):各11.0×29.0×13.0 cm、43体